Column

葬祭コラム

遺体の変化

 夏場、暑い時のお葬式は大変です。とくに一昔前は、ご遺体をあまり長く置くことは出来ませんでした。1976年(昭和51年)以前、自宅でお亡くなりになることが普通で
誰もが、死の直後から通夜、葬儀に至るまでの日数を心配をしたものです。
今でもこの感覚は大いにあり、お葬式はなるべく短時間に済ませなければと考えている人もたくさんいます。いずれにしても、死を境に、一番最初に戸惑うことは、目前のご遺体をどうするかという心配です。

 ご遺体の経過変化では、「死後硬直」ということが一般的にみられます。これは死後、2.3時間で徐々に始まり、半日もすると主な筋肉は固まってしまったようになります。
ですから、ご遺体の死に装束への着替えや、胸の上で手を組むなどの死後慣習のみならず、入れ歯の復元、あるいは横を向いた顔を正面に向けたり、まがった膝を延ばすなど、その直後に行ってしまわないと、そのまま固まってしまいます。首元にタオルをかませたり、時には膝や足首なども縛ったりすることもあります。これらは封印的な死者儀礼のあるかもしれませんが、ご遺体の形状をなるべく安らかにしてお見送りしたいとの現れではないでしょうか。

 さて、硬直ばかりではありません。実は3日間くらい過ぎると少しずつゆるんできます。
これを「緩解」と云いますが、ちょうどそのころに葬儀が終わって、最後のお別れという場面となることもあります。そうすると死に顔の表情も少し緩んで、穏やかに見えることも多く、当時はそのようなことから何かしら安堵の気持ちを踏まえて決別することができました。

 現代では死の直後から葬儀社の対応で、早急にドライアイスで冷却したり、またエンバーミングなどの「遺体衛生保全」を施す処置が一般的になりました。
自宅で安置して2.3日見守るようなことは、都会では少なく、多くは病院から葬祭ホールへ搬送され、そこの安置室や保管のために冷蔵庫に移されるケースが多く、やはりそこでも「死体」は私たちから遠ざけられています。
ご遺体の処置については、昔のようにあわてなくてじっくり打ち合わせもできますが、なぜか今でも、あわてて急がせる人が多いものです。少し落ち着いて、通夜や葬儀の始まるまでの期間をしみじみとかみしめてみることが大切です。
ご遺体の「表情」を今一度拝してみてはいかがでしょう。故人の人生がどのようなものであったかが、そこから偲ばれます。死者の表情はその人の人生そのものだと思います。
 

日本葬祭アカデミー教務研究室 二村祐輔