エンバーミング
ご遺体を衛生的に保全するためにはエンバーミングという処置が欠かせません。
エンバーミングとは、エンバーマー(Embalmer)と呼ばれるライセンスを持った技術者が、ご遺体の処置を行います。この処置は具体的には、ご遺体の洗浄や消毒を行い、顔面や頭髪などを整えます。含み綿や髭などを剃って、死に顔を綺麗なものにします。
そうして「おくりびと」(納棺師など)と最も異なるのは、ご遺体の頸動脈部などを切開し、器具を挿入、そこから全身の循環経路を利用して防腐剤を注入します。これと同時に、静脈より血液を排出します。いわば透析のように、心臓の鼓動に合わせたリズムでそのポンプを作動させます。また、腹部に金属管を差し込み胸や腹部に残った体液や消化器官内の残存物を吸引し除去します。これらは本来、医師など免許を持った医療従事者しか行うことができなかったわけですが、ご遺体に関しては、特別な専門技術として、その実地経験と資格試験に合格したエンバーマーがこれを執り行うことができます。
また、事故などにより、ご遺体の損傷が目立つ場合もその修復を行うこともエンバーミングの特徴です。もともとは戦争などで損壊した遺体の修復や搬送の技術からアメリカで生まれたもので、もともとは土葬を前提とした遺体対応でした。
現在では、故人の死に顔をより一段と美しくする、できれば生きていた時のように復元するなどの希望もあり、それにこたえて注入する防腐剤に、いろいろな色素も混合して、顔色などの調整もすることができます。そうして遺族から要望があった場合は故人の愛用の洋服などに着せ替えて、化粧を施します。これらの費用は、葬儀社によってオプションになっていますので、訊ねてみるとよいでしょう。
この処置が行われたご遺体は、感染症などの防止をしたうえで衛生的に処置されていますので、触れたりすることも可能ですし、また何よりも腐敗しないことから、長期の保存が可能ですので、英雄的な国家指導者などにこのエンバーミングを施し、生前の姿をとどめた廟として、祀られている国もあります。
一般的には、このエンバーミング処理の出来る設備を有した葬儀社や専門施設が少ないこと、また同時にエンバーマーなどの有資格者も少ないことから、地域によっては必ずしも対応できないことがあります。
日本では火葬が前提で、しかも死去後一週間もたたないうちに荼毘に伏すことも多いので、通常はまだまだドライアイスでの冷却保全がなされています。そのため、死に化粧だけで済ませることも一般的なご遺体対応です。お別れにはいい印象でお見送りしたいものです。