Column

葬祭コラム

墓じまいと二つのお墓 両墓制

 近畿地方や関東地方に多く見られる「両墓制」というお墓の形をご存知でしょうか?
 東北や北海道、また中国地方、九州では見られない「墓制」です。一人の死者に対して2つのお墓(両墓)を作ります。
 それらの地域では、中世から近世、また近代にかけて死者が出るとその亡骸の埋葬を集落から離れた場所に行って、これを「捨て墓」と呼んでいました。「捨てる」という語幹から、いわゆる遺棄のイメージがなされます。まさにそのように埋葬するのみで、特に墓石を建立したり、墓標を立てたりはしません。また埋葬後そこにお墓参りに行くことはありません。
 亡骸を埋めるためだけのお墓ですので、「埋め墓」とも呼ばれます。
 では、供養はどうするのかと云いますと、それは集落の中や近接したところに「参り墓」を建立し、それを祭祀対象とします。そこでは読経や供物が捧げられ、誰もが思い浮かべる一般的なお墓として守られていきます。けれども両墓制の「参り墓」の中には、遺骨などはまったくありません。モニュメントとしての墓石だけが建立されているのみです。このように
 「参り墓」と「捨て墓」を伝承していることが両墓制と云われる所以です。
 なぜそのような、手間のかかることがなされたのかは、いろいろな説がありますが、亡骸としての遺体を遠ざけて、忌避する死穢観もある一方で、霊魂に対してはこれを畏怖(恐れ敬う)ことから手厚く祭祀する霊魂観もあり、これらの際立った地域ではそのような墓制となったといわれています。けれども、香川県の瀬戸内海の島々には、「捨て墓」が集落に隣接し、同時にそこに「参り墓」も存在するようなところもありますので、一概には説明できません。
 それらの地域では、火葬になった現代でも遺骨は別のところに埋葬して、お参りするお墓には何も入れない伝統を守っています。