Column

葬祭コラム

墓じまいの実務 お墓の意味と意義

 田舎のお墓の入り口には、おおよそ六地蔵が並べられているところが多いですね。
 懐かしい風景です。六地蔵については、いろいろな伝承がありますが、特に昔話では年越しの恩返しの話が有名です。
 「笠地蔵」の話。
 老夫婦の生真面目な生活のなかで、ある日大晦日の夜、雪の降るなかをいつものように菅笠を売りに行ったおじいさんは、その売れ残りの編み笠を帰り道にいつも通る六地蔵に被せてあげてあげました。その夜ふけ、功徳が報われお地蔵さんの恩返しとして、金銀小判をいただき、めでたしめでたしという功徳報恩の話です。
 お地蔵さんというのは、地蔵菩薩という「菩薩」さんで、仏様の位からいけば、「如来」さまの下、観音様と同じ位です。けれども地蔵信仰の庶民的な感性としては、だいたいお地蔵さんは、子供を守ってくれる言い伝えや、また皆様のご先祖さまの変化(へんげ)でもあると云われています。この昔話は、信仰心の大切さというよりも、先祖供養の報恩を伝えたものとみることもできます。
 お葬式は昔、「死者供養」として遺体を主に埋葬地に担ぎ運び、その空地などでなされていました。ですから葬式と墓地には密接な関係があります。六地蔵の多くは、だいたい墓地の前などによくあります。それぞれの家のお墓ではなく、それ以前のいわば、その地域全体のご先祖さんを象徴していると云ってもいいですね。
 そのような伝統を踏まえると、田舎にあるお墓も安易には墓じまいできません。
 霊園など契約で入手した区画墓所などは、単に書類上の変更が伴うだけで、あとは実際の墓石撤去費など実費が伴うだけです。
 問題は境内墓地や共同墓地の場合ですが、ここではこれまでのお墓に対する伝統的な思いに触れてみました。
 笠地蔵の昔話など、日本の習俗では元旦の朝、お墓参りを済ませてから初詣に出向くという地域も多いものです。まずは、ご先祖様。それから年神様に新年のごあいさつと、その年の祈願祈念をお祈りします。家庭では、仏壇の灯りを新しく取り替え、新年のお供えをします。神棚もしめ縄などをすべて更新し、清々しくお参りします。
 時代は変わっても、葬儀やその後の供養を考えたとき、私たちの先人がお墓を中心にした生活習俗に親しみを感じています。いまやインターネットでお坊さんが派遣される時代です。生活哲学が何か軽薄さを伴って、供養も軽々しいものになりつつありますね。
 質素倹約も大切な生活態度ですが、簡略粗雑な生活はほんとうの豊かさを見失うかもしれません。あらためて昔話を思い出してみましょう。