墓じまいの風景 最初から墓がない!風葬
これまで風葬をいろいろ見ました。主にその跡地ですが。
沖縄の風葬地や洗骨などの儀礼、またインドネシアのバリ島の原住民(バリ・アグ)などの埋葬地で、土中で数年してお骨になるとその頭蓋骨を村の祭祀場で並べて祀るようなところでした。
今回は遊牧民の葬法も興味があったので、モンゴルのゴビ砂漠へ行っってきました。砂漠といっても砂山ばかりが続いているわけではなく、もともと適地とはいえない地帯を総称して「ゴビ」と呼んでいることから、そこは広大な荒野でした。
首都ウランバートルからプロペラ機で1時間ほど飛ぶと南ゴビ市に到着します。最初に市庁舎を訪ね、葬祭現況の話を取材しました。昨年の死亡者数は約100名、そのうち2件が「違法」の風葬であったとことなど。そのうち1件はまったく無届ということでした。
風葬はラマ僧の占託により日時や方角を決めた後、その当日遺体を馬にのせ、指定の方角に走らせます。馬が最初に止まったところに遺体を安置し、そこを風葬場所とします。遺体は裸の状態で、なるべく心地よさそうな石を枕とし、上からすっぽりシーツ状の布をかけます。風で飛ばないように四隅に重石を置きます。周りに故人の遺品などを供えて、遺族は引き返すそうです。
さて数時間もすると、覆いは風で飛ばされ、遺体は鳥や獣のえさとなります。とくにハゲワシなど大型の鳥は、数羽で遺体をまるごと巣へ運んでしまうらしい。ですから風葬の痕跡を見つけるのは難しいと云うことでした。せいぜい枕にしたであろう石が見つかるぐらいで、地獄絵のような白骨ゴロゴロのようにはなってないとのこと。
良く習俗とは言え、考えてみれば、僻地と言えども行政機関がある社会で、死亡や遺体の埋葬についても、当然、お上への届けが必要なわけで、風葬が古来からの民族葬法としても、この社会規則は守らなければならなりません。そのため、無届けで行なった葬家は、日本で言うところの「遺体遺棄事件」とされ、遺族、親族が全員警察の「事情聴取」を受けたということであった。自然回帰へのロマンも、いかにも現実的な社会制度のまえではお手上げですね。悠久としたゴビ砂漠の真ん中で、枕石らしきものを眺めながら複雑な心境にでした。馬を大切にするモンゴルには、日本で云うところの馬頭塚らしき石積みの墳墓が荒野のところどころにある。墓表の先には真っ青な布が風になびく。この色こそモンゴリアンブルーといわれる空の色。
首都では2004年7月に第1号の火葬場が開設され、砂漠の風葬もやがて伝説と化してしまうと思う。